対談1
中川先生(広島城北中学校) x 古新舜(ストーリーコミュニケーター)
(1)知識や技能だけではなく、生きる上で大切な情動性を育みたい
古新
シネマ・アクティブ・ラーニングを実際にやってみて、導入してみていかがですか?
中川先生
担任として授業を受け持ちながら、子どもたちと関わってきて三十年間。その中で僕自身がいろいろ勉強させてもらったと思ってるんです。そういう機会が無くなってから……自分の中では子どもたちとの接点が前よりは少なくなってきている。自分でも作ろうと思っていろいろと出しゃばって出て行くんですけれども、継続的な繋がりっていうのはなかなか持ちにくくなってきた中で、古新さんに来ていただいて、シナリオを作ったりコンテ描いたりっていう過程を子どもたちがやっている様子を見ると、「やっぱりこういう活動っていいな」って思う。普段の授業の時では大活躍していないように見える子どもたちもすごくイキイキしている。これがもう最高だと思いますね。
古新
普段活躍しない子がイキイキしているっていいですね。数学や国語などの基幹科目は重要ですが、私自身、OECD(経済協力開発機構)が提唱している社会情動的スキルを学びの場では大切にしたいと思っているのですよ。知識は生きていく上では必要ですが、それだけでは偏った生き方になってしまう。大切なのは思いやりや感受性などの見えない部分が大切なんだと思います。学校の基幹科目では個性を発揮できない子が、このプログラムを通じて自信を身につけてもらえたらとても嬉しく思います。
中川先生
もちろん普段の授業で活発に動いている子たちも活発なんですけど、普段どっちかっていうとその子たちの陰に隠れてしまっていて、我々もなかなか目が行き届いていない子たちが、こういう時にぐっと前に出てくる。すごく気持ちが乗って活動に参加している。それで、担任の先生に聞いたら、「いや、あの子ね、映画作り好きなんですよ」とか、子どもたちも、「映画作りたいと思ってたんですよ」とか「映画に関心があるんですよ」とかすごく語るんですよね。そういうのを引き出せるっていうのは、普段の授業ではなかなかない。
古新
映画作りは、自分たちで役割を決めて、自分たちの企画立案した脚本を、チーム一丸最後まで諦めずにやり遂げてもらいます。そこには、実は基幹科目で学んだこともエッセンスとして加えることができるんです。社会科だったらその土地の歴史とか文化とか。「シネマ・アクティブ・ラーニング」は、ぜひ基幹科目の教科横断にもご活用いただきたいと考えているんです。
中川先生
「シネマ・アクティブ・ラーニング」っていうと、映画作りっていう部分しか見ていない先生もいるんだけど、古新さんが言われているように映画っていうのは総合芸術っていうんでしょうか。シナリオがあり、カメラがあり、いろんな役割があって、最後それを演じる人たちもいて撮影する人たちがいて本当にチームワークの賜物だということを彼ら自身も感じてくれて、普段の勉強ができる、できないとか あるいは運動ができる、できないとかそういうものとは全く違う新しい活動にすごく没頭してるっていうんですかね。すごい熱中している様子を見るのが一番楽しいですかね。
古新
本当に今仰っていただいた通り、学力とか成績とかってもちろん大切なんですが、そうじゃない人間性とか好奇心という部分を、私たち大人が見つけてあげるっていうのも一つの教育の形としてやっぱり大事なのかなぁと改めて感じました。
中川先生
自分が表現したいことをチームで共有するためには、言葉を使って説明しなければいけない。お互いがそれを理解しようとする姿勢とか……。グループの中で話し合ってるときにだれかの意見を否定するんじゃなくもっといいモノを作ろうっていう議論をしてるんですよね。出来上がったものの良し悪しというよりは作っている過程が一番尊いのかなと思いますね。
(2)修学旅行を観光旅行にさせたくない
古新
御校では、「シネマ・アクティブ・ラーニング」だけではなくて、いろいろなものをお取り組みされていると思いますけど、中学三年生が修学旅行でiPadを持って、現地で撮影したり編集したり、そういうところを見ると、私も今回気づかされたのはやっぱり、現地の方々との交流を御校がとても大切にされているところだなと。そこが修学旅行と映画制作がマッチしてるのが嬉しく思いますが、そういうところいかがですか?
中川先生
修学旅行の行き先はにぎやかな観光地ではないところを選んで、その地域の人たちの生活だとか、歴史とか産業とか文化とか、そういうものを踏まえて、彼らが感じたことが映像になったら一番いいと思うんですけど。お金を出して買ったお土産を持って帰るのではなくて、自分が体験してきたことを家でお土産話として語れる修学旅行がいいなと思ってるんです。昔、僕らの修学旅行のお土産っていうとだいたい男子中学生は木刀……(笑)。そういうものはないけれども、家に帰って「修学旅行はこうだった、ああだった」「現地の方とこんな話をした」っていうように語れる、そういうのがいいなぁと思いますね。
古新
そうですよね。私自身もやっぱり中川先生がおっしゃった通り、学生時代というとなんか「長崎行った」ってなったらカステラとか……風光明媚なところに行ってみたいな。修学旅行ってなぜか、観光旅行だなって思っていました。それはまぁ思い出作りとしては楽しいですけど、学生当時、私自身も「修学」になってないなって感じはしました。
中川先生
おそらく今の中学生たちが大人になった時にいわゆる過疎化が進んで、限界集落になるようなところも増えてくるんじゃないかと思います。地方創生が彼らにとっても直面する大きな課題になってくると思うんですね。そういうときのことを思うと、彼らが旅先の人たちの生活を体験できるっていうのはすごいいいことだし、そういう景色を見てくるっていうのは面白いなって思うんですよね。「どうして観光地に行かないんですか?」っていう声が誰かから聞こえてきてもいいくらいなんだけど、何もないんですよ。「え、観光地行かないんですか?」っていうのは、中学受験の説明会で話していると出てきます。「何もないところをあえて選んで行ってるんです」と(笑)。
古新
なるほどですね。人間性とか人との関わりを大切にされていることは、中川先生含めて御校の素晴らしいところなんだろうなと思います。
中川先生
「自分の力」って言ったらいいんですかね、「自分を取り戻す」って言ったらいいのか……「自分に向き合う」ことがすごくできていると思うんですよ、子どもたちが。その部分がなかなか普段の生活の中では難しい。まぁ、僕らがそういうチャンスを学校で作っていないのかもしれないのですけど、授業や限られた学校生活の中ではできないことを、修学旅行のフィールドワークで体験する。素晴らしい出来事なんじゃないかなぁと思います。
古新
なるほど。修学旅行っていうと東京だとディズニーランドに行くとか、大阪だとUSJとか、そういう子どもたちに人気があるところで人気取りみたいな発想も多くあると思うんですけど、それはそれで何を私たちが彼らに学びを提供して、一緒に学生と共に教員も深め合えるかというのは、これからの学校にとってとても必要なことだと感じます。文科省さんが教育指針を示唆していることもあって、どうしても教育現場にはある程度マニュアル化、ルールみたいなものが占めているように、現場が刷り込まれている感じがするのですけれども、やっぱり学びってそれをベースにしながらも、自分で編集していくことが大切ですよね。子どもたちの編集力だけではなくて私たち大人の編集力も伴うんじゃないかなと思いますよね。
中川先生
いやー、古新さん。僕ね、好きな言葉があるんですけど、福沢諭吉の言葉で「学校というのはものを教えるところではない。生まれながらに持っているものを引き出すところだ」っていうんですよね。これは初めて聞いた時にすごい衝撃を受けましたね。映画作りを通して、彼らが自分の中にあるものに気づくっていうんでしょうか。こちら側からすると「気づかせる」とか「〜〜させる」っていう言い方はあまり好きじゃないんですけど。彼らが常に主人公なので、子どもが主語になるような活動だと思うんですよね、これは。させてるわけじゃないんで。プログラムを提供するのは大人の側なんですけどね。活動するのは彼らだし、映画を撮るのも彼らだし。彼らが主語になって、彼らが主体になってやって動いてるっていうのは大事にしたいなと思いますね。
(3)コロナによって大きく変化した学びの環境を学校はどう受け入れるか?
古新
今年(2020年時点)は、コロナもあってみなさん今までの既存のものが覆された状況だから、自分たちが何を大事にするかっていうことは本当に一律で、みなさんが主体的に考えていく時代になりましたよね。その中で、中川先生はどう思われますか? コロナがあったから云々っていうのは、もしかしたら、あまり関係がないのかもしてないですけど、でもやっぱりポストコロナ時代における教育とか学びにおいて、シネマ・アクティブ・ラーニングもそうでしょうが、御校が大事にしていきたいもの、構築していきたいものってどんなものがございますか?
中川先生
三月から五月にかけて、子どもたちが学校に来られない時期が非常に長かった。あの時に「学校の役割ってなんだ?」って考えたんですね。三月は授業がほとんど終わっていて、学年末テストを迎えるだけだったんですけれど、それこそ急に休校になったんで担任の先生たちが自発的にHRを始めたんですよ。オンラインで。朝になっても起きてこない時は、オンラインでほかの子どもたちと繋がったまま、片手に電話をもって「おーい、起きろー」って。やっぱり繋がりっていうのが大事なんだなぁって思いましたね。学校の役割って、大半は授業ですけど、決まった時間に起きて、学校で授業を受けて、終わったらすぐ帰る子がいたり、部活をやってる子たちがいたりっていう中で、子どもたち同士が、ときにはぶつかり合いながら接点を持ってるわけですよね。そういう部分が学校に来られないってなると無くなっちゃうんだと。三月は、実施できなかった学年末テストの問題を、子どもたちに送って解説しながらオンラインで学習支援を始めました。これがだんだんと学校中に広がって、朝のHRはみんなオンラインでやって、起きてこなかったら「どうしたんだー」って。そして、午後からまた個別に面接もしていました。うちの先生ってある意味しつこいんですよ。子どもたちの顔を見ながらずっとやってきた。なんか、リアルで繋がってるのが、絶対良いのはみんなわかってたんですけど、やっぱり学校はいろんな意味で「人と人がぶつかり合うところ」でもあったんだなっていうのを、確認した時期でした。
古新
人間味溢れる先生方の日頃からの熱心なご指導の様子が目に浮かぶようです。私自身も、この五年間、御校の先生方と沢山交流させていただき、学生さんに対して学内の成績だけではない、個性とか人間性を大切に向き合われている様子をいつも肌身で感じさせていただいています。これからの学校のあり方は、学生さん個々人の人間性に着目するところにあるのでしょうね。
中川先生
これからも学校の役割っていうのは、もちろん授業を提供する場所でもあるんだけれど、直接リアルに語り合う、議論しあう、かつ同じ場所を共有してる、同じ時間を共有してるっていうことで、そこでの学びっていうのはすごく意味を持ってくることなんじゃないかなと思っているんです。人間は一人じゃ生きていけないじゃないですか。必ず人と繋がりながらじゃないですか。そういうのが休校中でもできていたと思いますし、もっともっとそれが大事になってくるかなぁと。まぁオンラインであれオフラインであれ……。僕はオンラインでも画面上で議論やけんかが始まるくらいのことが起こってくれればもっと楽しいのになと思ってますけど。うちは同期型、双方向型で学習支援をすることにこだわってます。クラウド上に動画をアップしておいてそれを見に行くという形式もあるようだけどああいうのは一方通行で、おそらく三倍速で見ているんでしょうね。同期型・双方向型の人間どうしの繋がりこそがうちの学校が大事にしてきたことだし、これからも大事にしていきたいことだなぁと思いますね。
古新
そうなんですね。教員の方々もこういう状況に向き合って、学生に寄り添う姿勢って、子どもたちに伝わりますよね。
中川先生
オンラインでもそれが可能だったということなんですけど、やっぱりね、オンラインはオンラインで、あくまでも壁の向こう側の人と話しているような感じがしますよね(笑)。
古新
パラダイムシフトが起きていると、ワーってみんなでそっちに行くんですけどオンラインの良さを理解しながらも、フィールドワークとか対面とかの良さっていうかありがたみがわかりますよね。
中川先生
現地に行くからこそ見えるもの感じることがあるし、目の前に立っている人から直接学ぶということの意味は大きいですね。大学の先生や卒業生に来ていただいてお話を聞くことを、うちではよくやってましたが、最近は「オンラインで」っていうこともありますね。インターネットが、時間とか距離を感じさせない環境を作るようになってきて、世界の風景を見たり、地球の裏側にいる人の話を聞いたりすることが手軽にできるようになりましたよね。それだけに、フィールドワークとか対面には「今」「ここで」なきゃならないものが求められるんじゃないかなって思います。他の学校に出前授業で行くことがあるんですけど、こんな時にせっかく呼んでもらってるんだから、オンラインじゃ絶対できないようなことをやってます。子どもたちが教室中を動き回るような場面もつくるんで、密をつくるって心配されることもありますけど。
古新
そのような状況の中で、今年以降、修学旅行における映画作りって、中川先生には、どういう思いがありますか?
中川先生
絶対に続けていきたいですね。ただ行き先とプログラム全体と日程を検討しないと、難しいこともあるかな。映画作りを通して彼らにどうなっていって欲しいのかっていうのは、学校の中でもう少しみんなで議論をする必要があるかなぁと感じます。子どもたちは、ものすごい集中力でやってると思うんですよ。子どもたちを主語にして、教員側がそれに対して指示・命令や禁止じゃなくどういうサポートができているかっていうことをもう一度見直してみたいなと思います。
(4)私たち大人が学生たちに向けてできること
古新
そうですね。外部のプログラムを受け入れていただくっていうのは、みなさんのご協力がないとできないことですけど、中川先生が「シネマ・アクティブ・ラーニング」の御校における一番の理解者で、これだけ続けていただいて、心より感謝いたします。子どもたちの映画作りという、普段ではなかなかやらないことが、実は大事なんじゃないかと思っています。子どもたちが、学びを組み立てている時に、「あぁ僕はこういうのが得意だ」とか「貢献できた」みたいな、そういう社会的な役割を感じるってことが、彼らにとって、この時代を生き抜いていく力を身につけてくれたらなっていう、私自身の思いもあるんですけど、中川先生がそこをご理解いただいてるのは本当にありがたいと思います。
中川先生
もう、いろんなメニューをやっていると、本当に子どもたちのいろんな側面が見られますから、それを見ているのが楽しいんですけど、最初に申し上げたように、この活動になった時に、すごく輝いている子たちを見るのが本当に面白いですね。「あ、この子こういう側面があるんだ」とか。普段はリーダーのような存在ではないんだけれども、こういう場面の時ではみんなをまとめてるとか。自分が率先して動いてるとか。そういうのを見かけると嬉しいですね。今までも、うちに中学校で入ってきた時に、小学校時代学校を休みがちだった子もいるわけですよ。そういう子がシネマ・アクティブ・ラーニングを通して、修学旅行のいろいろな準備の段階で大活躍している。現地に行ってからも撮影のときにリーダーシップを発揮しているなんて、こういうのはもう、見てて本当に楽しいですね。
古新
そうやっていいところを見つけてあげるっていうのは大人たちの役目ですよね。
中川先生
普段授業に積極的に参加していたり、テストの成績とかまあまあ問題なくやってる子が、こういう活動の時に意外に活発じゃなくなって大人しくしてるのを見たりします(笑)。
古新
そうなんですね。今年無事修学旅行で、ちょっと和歌山は(コロナウィルスの状況で訪問できず)ちょっと残念ですけれども、許す範囲でフィールドワークをしながら作品作りを実施して、コロナがあったからこそ作品という形にして、「あぁ、あの時こんなに大変だったけど、僕たちああいう作品作ったなぁ」なんて、なってもらえたら、私としても嬉しいと思っております。
中川先生
与えられた環境の中で子どもたちが、自分たちにできることってなんだろうと、やってみようとする姿、また見たいですね。「なんとかなる」って。古新さんに来ていただいてやるメニューって、すごく盛りだくさんじゃないですか。短い時間の中で作品作りをして、古新さんのワークショップの中で一回完成しますよね。すごい短い時間の中でやる。僕らも最初聞いていると「え、そんなに短い時間でそんなにできるのだろうか?」って思うんですけど、やっちゃうんですよね、彼らは。「無理かもしれない。だからやらない」じゃなくて、「だからやってみよう」の方に動いてるっていう。そこがすごいですよね。
古新
本当ですよね。私たちが限界を勝手に決めるんじゃなくて、子どもたちがそこに向かって未来志向でチャレンジする。本当に大事なことですよね。
中川先生
彼らもその分、達成感があるのかなって思うんですよ。「短い時間の中でたくさんのメニューこなしてできた」、「最初はちょっとダメかもしれないなぁと思っていたかもしてないけどやってのけた」、「自分にも何かできるんじゃないか」ってそこで感じている子もたくさんいるんじゃないかって思うんです。どちらかというと自信なさげにやってる子が多いわけですよ、最初は。「映画作りってよくわかんないし」とかっていう子もいるわけですよ。古新さんからは映画作りを通していろんな学びを提供していただいているわけですけど、それも一つの場面だし、映画作り以外に魅力を感じて、例えば絵コンテを作るとか脚本を作るとか、演じるとか、あるいは後から効果をつけるとか。結構子どもたちって好きじゃないですか。そこでこそ力を発揮する子もいるわけですよ。色々な活躍場面がある。そういうのがいいなぁと思いますね。
古新
貴重なお話を聴かせてくださり、ありがとうございます。