対談3
横濱先生(聖徳学園 最高情報セキュリティ責任者) x 古新舜(「シネマ・アクティブ・ラーニング」考案者&ファシリテーター)
(1)映画制作で「和をもって尊しと為す」を実践する
古新
実際に学校の教育現場で、「シネマ・アクティブ・ラーニング」を、中学一年生に導入してみてどうでしたか。
横濱先生
ビックリするぐらいに子供たちが、優しい顔をしていました。中学一年生というのは、他者を敬い受け入れる気持ちがまだまだ難しかったりする年頃です。また中学二年生に向けて様々な考えを多角的に持つようになり、お友達同士ぶつかることもありますが、他者を理解するという点において、「シネマ・アクティブ・ラーニング」の貢献度がすごく高く、子どもたちの心の成長を感じています。それがすごく大きなポイントだったかなぁ。
古新
ICTの文脈からが情報というところでこの映画制作を取り入れていただいたのですけど、今おっしゃったとおり、お互い協調していくとか協働作業とか、チームでやるというところで何か気づいたこととかあります。
横濱先生
本校で大事にしている聖徳太子の「和をもって尊しと為す」。他者を尊重する、敬うという心、その育成に非常に強い効果があるのかな。コミュニケーションっていうのは、他者の意見を受け入れた上で自分の意見をまとめてもう一度伝えていく。で、また相手から同じようにキャッチボールで成り立つと思うのですけど、それが非常に柔らかくなった。他者を受け入れる気持ちの部分がすごく成熟したのかなと思います。
(2)新しい教育プログラムが学校をどう変えた?
古新
伊藤先生からも教員の方々のご理解というのを大事しているとを伺いましたが、横濱先生はどうでししたか。最初に取り入れた時の教職員の方々とか保護者の方の反応とか。
横濱先生
新しいことを始めるというのは理解がなかなか得られない。何やってんだ、という風になってしまうわけですね。しかし、最後の成果発表で、特に学年の先生方が「これはいいね」っておっしゃっていただいたんです。子どもたちがチームで一つのことに集中をして取り組み、その成果を映画祭としてみんなで映共有して、良くも悪くもいろんなことを体験する。先生方は子供たちの様子を見ると理解されるんですよね。学年の先生方からも非常に高評価をいただいていて、実はそこからつながった新しい取り組みなんていうことも結構あります。
古新
どんなものですか。
横濱先生
聖徳学園の「シネマ・アクティブ・ラーニング」は、五年目だと思いますが初年度は監督におんぶにだっこでした。翌年度から、スキルとかお知恵をお借りしながら、手前共でカリキュラムを構築しています。その中で、各教科が参加してくれるようになりました。例えば、美術や国語や音楽。映画制作に携わっている方々が必要とされているスキルに関わる教科の先生が一緒に協力してくれるんです。いろんな先生方が映画を通した学びというのを非常に快く受け入れてくれている証かなと考えています。先生方の気持ちを変えていくというのはなかなか難しいんですが、実際に目の前で、毎日接している子どもたちが楽しそうに、のびのびと何かプロジェクトに向かっている姿、またそのプロジェクトで出来上がった成果物を先生方が見られた時に、ああすごいな、って子どもたちの成長を見直す機会がすごくプラスに働いているのかなと。学校にメリットしかない素晴らしい取り組みだと思っています。
古新
なるほどですね。御校の場合は、映画を作ることを目的にせず、映画を通じて例えば、社会とのつながりだったりとか、 SDGsとか、学校を卒業した後も考えながら、このプログラムを取り組んでいただいてんじゃないかなって思いますけどいかがですか。
(3)コミュニケーションを土台とした学びを学生に提供する
横濱先生
本当に今、古新監督がおっしゃったとおり、本校では映画を作るということを第一目的にしていません。この映画を作るという授業を行っている ICT という授業も実はその中学一年生の段階で、コミュニケーション--他者を敬う心を育てていくということが主軸にある授業です。その上にたくさんのパーツが組み合わさっていて、その主軸に対してぴったりと当てはまる一つとして、この「シネマ・アクティブ・ラーニング」に取り組んでいるということなんです。
古新
御校が大事にしているのは知識偏重だけじゃなく、やっぱり人とのつながりとか、あとはマインドとか、最後までやり抜くグリットとか、そういう部分を結構大事されてますね。
横濱先生
入試でもそうですけれども、途中で諦めちゃうとその先って何もないんですよね。失敗してもいい、失敗してもいいから諦めずに何度でも挑戦してみようよ、っていうそういったマインドを持ってもらいたいな。そういうマインドを持った子どもたちを育てていきたいと考えています。映画なんてポーズが決まらなかったとか、音が良く入らなかったとか、いろんな原因で何度もテイクを重ねますが、そういった体験ができるのもこのプロジェクトのポイントなのかもしれませんね。
古新
コロナもあって遠隔授業とかがあったりする中で、教育現場で求められているマインドとかこれからの教師像は、どういうことなんでしょうかね。
横濱先生
やはり一番は子どもたちの成長のために、失敗というものに対して寛容になるべきだと考えています。別に数学の先生が嫌いというわけじゃないんですが、たとえば数学の先生が数学を嫌いな子に対して数学を教える。この構図って数学を好きな人が数学を嫌いな人に対して教えているんですよね。もうちょっと言い方を変えると、数学が得意な人が、数学が苦手な人に対して教えているので、数学が苦手な人の気持ちってわかってあげられないパターンが多いんですよね。そこを考えられる。たとえ考えられなくてもその人たちの意見を聞いて汲み取ってあげられる。そういったコーチングのような能力を持った先生というのがこれからは必要なのかな。
古新
各科目の得意な子だけがその授業で主役になるのではなく、全員が一人ひとり違った個性があるので、その部分を引き出してあげることが、これからの教育現場には求められているのでしょうね。取り残されない、表面的な優劣で誰かを排除しない姿勢は、小生の教育活動においても大切にしている点なので、とても共感いたします。
横濱先生
間違いなく数式っていうのは、コンピュータでも解を求められる時代になってきているんですよね。ただ、解を出すためのプロセスをどうやって踏んだらいいのかなっていう発想力がないっていうのが、多分数学の苦手な生徒の悩みだと思うんです。こうやったら解けるんだっていうことが分からないから数式が解けない、問題が解けない。得意な人はすぐ気付いちゃうんですが。苦手な人って全然気づけないんですよ。だから解けなくて数学嫌いになっちゃうんですよ。なぜできないのか、なぜそこが気づけないのかっていうのを理解してあげて、より良い手法でそれを理解させてあげる。そういったコーチングの技術が求められているんじゃないかなと、僕自身はすごく感じています。そういったコーチングをする上で必要なデータというか、この子はどういう傾向があって、図形と数式だったらどっちの方が得意なんだろうかとか。そういうデータ的視点でICTのサポートがありつつ、先生のコーチング能力で子どもたちの学びがより豊かになるような。そういう先生が増えていくといいですよね。子供たち一人一人を見てあげられる先生って素敵です。
古新
だから「シネマ・アクティブ・ラーニング」でも iPad を使ってやっていただいてますけど、如何にそのデバイスをうまく工夫したりとか、あ、こんなアプリがあるんだ、とかって見つけていきながら、そこに対して先生方も気づきがあったりとか、後は、「あ、こういうふうに学生は使うんだな」、みたいな感じで。一方方向ではなくて、インタラクティブっていうことが大事なんじゃないかなと。
横濱先生
そうですね。「シネマ・アクティブ・ラーニング」もやはり教員がコーチングに徹するというのが非常に重要なファクターだと思います。こうしなきゃいけないとか、こうするべきだっていうのはないんですよね。だから、基礎的なことは教えますが、多くは伝えません。実は教えたことをひっくり返して考えることによって、新たな手法が生まれることもあると思うんですよね。そういった新しい発想や柔軟な考え方を生み出すためにも、教員が決め事を指導するのではなくて、子供たちの色々な意見を受け入れてあげて、それも面白いね、じゃあちょっとやってみようか。なんかうまくできなかったね。じゃあ、今度はこっちをやってみようかと。子供たちのやる気や積極性を引き出してあげるそういうコーチングの部分を大切にしていきたいですね。これもこの学校が大事にしている子供たちに対する教員の「和の心」だと思います。